朝、矢来能楽堂にて観世喜正氏の道成寺の申し合わせ。
昼はジムにて10km程走る。
夜は宝生能楽堂にて一噌幸弘氏の笛の会。父君・一噌幸政先生追善の会。幸政先生には中学三年の時から20歳迄笛を教わり、最後は宝生の延年や、姨捨といった奥伝の曲まで教えて頂いた。笛を打楽器として吹く、宇宙空間を廻るが如く音が周り続ける師の笛、今でも鮮明に耳に残っております。笛を吹く楽しさを教えて頂いた恩師へのおたむけの会。タイトルは幸政先生追善、”一噌幸弘笛づくし”だが、僕の印象では”幸弘吹きまくり"であった(笑)その方が幸ちゃんらしいよね!?
何せ初番から、「三番叟」。立方に野村萬斎氏、笛はもちろん幸ちゃん、大鼓は小生、丁度我々3人のユニット"能楽現在形"のメンバーによるオープニングとなった。ユキちゃんとプロデューサー土屋恵一郎氏によるイキな計らい。
ここで「三番叟」についてふれておきたい。
思いは語りつくせず、文章にしたら数ページかかってしまうのでなるべく簡潔に、単純に言ってしまうと、この三番叟という曲が私にとって一番大切な、大好きな曲の頂点に有る。祖父・俊雄、父・忠雄が最も得意とし、多大な評価を受けてきた、言わば「お家芸」のようなものであると思う。
明治の頃まで、三番叟は「狂言アシライ」の一部のように扱われ、型も手組みもほとんど整理されてこなかった。能であれば完璧な処理が施されていたであろうに。当時は、こんなことを言って大変に申し訳ない事だが、役者内も観客も狂言は能の添え物のような見方をしていたと聞く。だから、囃子の作調もさほど気合を入れて作っていなかった。
その三番叟を祖父の俊雄が自分の当たり役ということもあり、今一度見直してみようと、大親友である野村万蔵氏(萬歳さんの祖父)と相談の上、型と手組の整理を完璧に行った。なので野村家と亀井家の三番叟は最もお互いに具合の良い、所作と掛け声とリズムがぴったりはまる組み合わせになっているのである。世間にあまり知られていない事実。万蔵先生とじいさまの三番叟は見る由もないが、父親と万之丞時代の現・萬先生、万作先生の三番叟は随分と見てきた。自分が幼稚園の頃からである。
笛は藤田大五郎先生、小鼓頭取は鵜澤寿先生に北村治先生の超人的なスケール、そして親父の「揉み出し」の天性のリズム感に、掛け声の鋭さにシビレっ放しだった!!!
この「揉み出し」(三番叟の始めに打つ手組み)こそが、亀井家のお家芸であり、命そのもの。大鼓方の芸術性が一番問われる楽器。僕は道成寺以上に早くこの三番叟が打ちたくて打ちたくて仕方がなかった!好きが高じて小学校二年のときには型と手組と笛を全て覚えた。立方は何といっても万之丞先生に万作先生。萬先生の豊かで大きいスケール抜群な三番叟、万作先生の完璧な身体技術から来る、鋭利な刃物のような三番叟。両先生ともタイプは違われますが、一番大事な「躍動感」という意味では共通してらっしゃるかと思われます。
それに大倉流に比べて和泉流は「揉之段(モミノダン)」の中の立方の掛け声が多いので、こちらの囃子の掛け声との連帯感と相乗効果が生まれてきます。
お互いに苦しいけど負けるか!お前も頑張れ!俺も頑張るぞ!!みたいな感情になってきます。僕だけかもしれないけど…。
祖父達、父親達、そして萬斎氏と自分の孫世代、伝承とは伝え、承れてゆくものでしょう。但し、その時代での構築の仕方があるのでしょうね!能役者も時代によって芸が変革してゆくのと同様、お客様の好みも変わってくるのと同様、父親達の30~40代の頃のあの燃えたぎった三番叟に限らずどの曲でもやっていきたい、自然に角が取れてくれれば、自然に贅肉がとれた芸に変革していければいいと思う。
この日の三番叟、現在系のメンバーに加え、小鼓に曽和尚靖氏と成田達志氏を迎えての舞台。気合も体力も有り余っている面々、バトルロイヤルの如き全員乱れ飛んでの殴り合い・どつき合いの試合のような舞台であった!誰が最初に倒れるか最後迄残っているか…。大人の仲間入りのような舞台も有り難い!でこのような”ガチンコ勝負”の舞台は、三響會以外ではお目に掛かった事がないので、正直嬉しかった!!
幸いに全員倒れることなく終曲。
今年は随分萬斎さんと三番(僕ら玄人ではこう呼ぶことが多い)を演った!僕は明日のミッドタウンの三番で、今年合計19回打ったことになる。今年は多かった。彼とはそのうち8~9回はご一緒させて頂いたであろうか!?やはりお互いに一番呼吸が合うし、承がれた芸が共通意識として自然に肉体から出るというのがいいのでしょうね!バッテリーのようなもの。萬斎の舞(投手)に広忠の大鼓(保守)、そう呼ばれる時代を築いて行けたら嬉しいです。万作先生も父もまだまだ至芸を見せ続けて頂けてる。親の30代~70代の芸の移り変わりをしっかりと自分の目に焼き付けて、やがて自分もその年輪を自己の考えと共に追ってゆく。親世代と比べられる辛さはありますが、見所でご覧頂いている以上に我々二世はその重みを知っている訳なんですよ。誰よりも。
止メの曲は「融 十三段」。銕之丞先生のシテに一噌幸弘・成田達志・亀井忠雄・金春惣右衛門の面々。ある意味、三番よりも体力的に大変な曲。マラソンしているようなものなのです。これまた「凄まじい」十三段。80歳過ぎの金春先生と70歳近くの父親、二人の人間国宝の、ユキちゃん・タッちゃんという技術・体力が最も勢いの盛んな中堅2人に対する意地とプライドがさく裂していた。ダテに国宝の看板背負ってません!このように世代をちりばめた配役はいいものなんです。同世代というところに安心しない。絶えず舞台に緊張感を保たせられ、いい舞台に出会えた日は幸福感で満たされます。
幸政先生も喜んでくださっていることでしょう。いつまでもユキちゃんを見守ってくださって欲しいものです。