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傳左衛門日記 10月18日

今月の平成中村座は仮名手本忠臣蔵の通しである。日によってプログラムは異なるが、大序は必ず演じられる。
歌舞伎に於いて忠臣蔵の大序は、能の「翁」に相当する。儀式であり、変えてはならないものの一つだ。
幕を開けるのに、「天王立下り端」という囃子を打つ。これは三段形式で、キザミという手法を各段毎に三つ、五つ、七つと所謂「七五三」に打っていく。
この囃子に合わせて、狂言作者さんは四十七士に合わせ析を四十七発打つという口伝が有る。それ以上打ってますよね、とよく突っ込まれるが、あれは天王立の囃子に合わせてゆっくり打つのが四十七発で、あとは幕に合わせて早めて打つのである。ちなみに天王立の中で析を打つ箇所も決まっている。
昨今の一座の中では、この幕開きが長過ぎるといって、七五三を省略し七三と二段形式にさせる所もあるが、少なくとも我が田中社中には絶対にそれをさせない。仮名手本忠臣蔵の大序を崩す事は歌舞伎囃子を崩す事である。歌舞伎も含め何でもテンポアップの時代だが、やはり守り伝える事も重要である。
さて、幕が開くと置鼓という小鼓を打つ。これは必ず家元か、一座の囃子の責任者、"立鼓"といわれる者が打つ。僕は若輩ながら、随分させていただいている。
これも七五三に打つのだが、ここでは細かい説明は控える。必ず紋付袴を着用する口伝が有る。確かに前方端のお客からは見切れるが、他の演目でもよく有る事だ。
これは儀式性を重んじる為と、出打ち、即ち出て演奏していた時代が長く有った為である。
ゆっくり幕が開くにつれ動かず、開くほんの瞬時だけ音を調節し、打つ。難しい。昔の方々はこの置鼓だけを打って帰ったというが、この緊張感、難しさ、なるほどと毎度思う。
「The Diver」に出ていたキャサリン等英国人キャストとスタッフが観に来た時、口を揃えて大序が素晴らしかったという。東洋趣味じゃなくて?って笑ったら、そんな事では無いと一喝された。幕開き、置鼓(僕の声が聞こえたと騒いでいた(笑))、東西声の儀式から義太夫の置き、魂が入って…義太夫や役者の台詞の意味は解らないが、一人一人のキャラクターがはっきり出る素晴らしい演出で、あの50分と解説書を読めばあとのドラマが容易に想像出来ると言っていた。
やはり大序はまだまだ奥深い…

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コメント (1)

nkee:

初めてコメントします。
いつも勉強になる記事、興味深い記事を書かれていて読ませていただいております。
歌舞伎の忠臣蔵の大序は、能の「翁」に相当するということは、知りませんでした。伝統を守り続けるご意思の強さに説得力を感じました。
残念ながら、舞台は拝見できませんでしたが、(『DIVER』も涙を呑みました、現在おさな子を子育て中・・・。)またの機会に囃子を感じながら観たいと思います。
また、キャサリンさんたちのコメント『東西声の儀式から義太夫の置き、魂が入って…義太夫や役者の台詞の意味は解らないが、一人一人のキャラクターがはっきり出る素晴らしい演出で、あの50分と解説書を読めばあとのドラマが容易に想像出来る』に、驚きです。一流の方は感性ももちろん、知性も一流ということを改めて教えてくださいますね。

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