音楽の構想はベルリンで練っていた。昼の公演前、ブランデンブルグ門の前のスタバのソファーが指定席。LONDONの野田さんとはメールでやり取りを進める。
スコア読みを進めていくうちに、やはり転調の問題に悩んだ。前述の通り、和楽器は転調に弱い。一小節ごとに切ってチューニングし直す必要が出てくる曲もある。特に凱旋行進曲以降は大変な多さだ。邦楽の古典曲を含め、色々な曲を考えねばならない。
本を繰り返し読み込んだ。オペラでは歌唱と音楽が主体であるが、演劇は台詞の意味が伝わらないと意味が無い。野田さんの言葉を聞かせないと意味が無い。オペラ曲は耳がメロディーを追うせいか、台詞が聞き取りにくくなる。
愛陀姫はオペラでは無い。歌舞伎であり演劇である。この芝居で重要なのはオペラ曲ではなく、実は邦楽の古典曲である。
今までの野田歌舞伎を思い起こすと、前半から中盤はずっと古典曲を用い、エンディング曲はクラシックの名曲を邦楽にアレンジしたものを用いていた。研辰は「カウ゛ァレリア・ルスティカーナ間奏曲」、鼠小僧は「ホワイトクリスマス」。今回の野田さんのエンディングの想定は伺っていないが、そんな感じなのだろうか。
本を読むと行列イコール葬送である事に気付く。ピンと閃いたのがマーラー五番第四楽章「アダージェット」。玉三郎さんが出演していらしたモーリス・ベジャール氏のバレエを観て以来、バレエに目覚め、順にクラシック全般、オペラと幅広く興味を持っていった。残念ながらジョルジュ・ドンの「アダージェット」を生で観る機会は無かったが、ジル・ロマンの「アダージェット」を観てからドンの「アダージェット」をビデオで観て、ずっと大好きだった曲である。曲を聞きながら台本を読んだら、実に合う。
ベルリンの劇場の楽屋で勘三郎さんにラストシーンの濃姫、愛陀姫、駄目助左衛門の本読みをしていただき時間を逆算した。基本的に邦楽の古典曲に野田さん指定のオペラ曲を幾つか挿み、エンディングはアダージェット。音楽コンセプトは決定した。野田さんにメールをしたら直ぐにゴーサインが出た。

